三分怪談

3分で読めるホラー掌編

第二話

二人分

2026.08.08

上の階の住人は、几帳面な人らしかった。

私が夜中にキッチンへ立つと、少し遅れて、上からも足音がする。私が廊下を歩けば、天井の向こうも歩く。生活のリズムが似ているんだな、と最初は微笑ましく思っていた。

気になり始めたのは、梅雨のころだ。

足音が、似ているどころではないのだ。私が三歩あるけば三歩、立ち止まれば止まる。試しに、意味もなく部屋の中をジグザグに歩いてみた。天井の音も、ジグザグに動いた。

翌朝、管理会社に電話をかけた。上の階の生活音について相談したい、と伝えると、担当者は書類をめくる音をさせてから、不思議そうに言った。

「二〇三号室ですよね。……その上、二年前から空室ですが」

その夜から、私は足音を立てないように生活している。すり足で歩き、床にはマットを敷きつめた。音さえ立てなければ、上も静かだ。それでなんとか、眠れている。

ただ――寝返りを打つたび、天井のすぐ裏で、何かがゆっくり寝返りを打つ。

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