二人分
2026.08.08
上の階の住人は几帳面な人らしかった。
あたしが夜中にキッチンへ立つと、少し遅れて上からも足音がする。あたしが廊下を歩けば、天井の向こうも歩く。生活のリズムが似ているんだなと最初は微笑ましく思っていた。
気になり始めたのは梅雨のころだ。
足音が似ているどころではないのだ。あたしが三歩あるけば三歩、立ち止まれば止まる。試しに意味もなく部屋の中をジグザグに歩いてみた。天井の音もジグザグに動いた。
翌朝、管理会社に電話をかけた。上の階の生活音について相談したいと伝えると、担当者は書類をめくる音をさせてから不思議そうに言った。
「二〇三号室ですよね。……その上、二年前から空室ですが」
その夜から、あたしは足音を立てないように生活している。すり足で歩き、床にはマットを敷きつめた。音さえ立てなければ、上も静かだ。それでなんとか眠れている。
ただ――寝返りを打つたび、天井のすぐ裏で何かがゆっくり寝返りを打つ。