同じ朝
目が覚めると、またあの朝だった。
午前七時、同じアラームが鳴り、同じ天井が見え、カーテンの隙間から同じ光が差す。枕元のスマホは同じ日付を表示している。何度迎えたか、もう数えるのをやめた同じ朝だった。
最初はただの既視感だと思った。でも、違った。僕は同じ一日を何度も繰り返していた。そして、どの一日も必ず夜に同じ結末で終わる。午後十一時過ぎ、何者かに背後から突き落とされて、アパートの階段で僕は死ぬ。顔は見えない。ただ、落ちる瞬間、耳元で囁く声だけが聞こえる。「やっと追いついた」と。
そして、落ちた衝撃のその瞬間に、また朝に戻る。
僕は必死であがいた。最初は、その時間に階段を使わなければいい、と思った。夜は一歩も部屋から出なかった。鍵を二重にかけて、ベッドでじっとしていた。でも、午後十一時、天井から何かが降ってきて、僕はベッドの上で死んだ。
次は昼のうちに、新幹線で何百キロも遠くの街へ逃げた。知らないホテルに泊まった。でも、午後十一時、そのホテルの非常階段で、僕は突き落とされた。「やっと追いついた」と、同じ声が言った。
警察に相談した。信じてもらえなかった。友達に助けを求めた。その友達が僕を突き落とした日もあった。好きな人に告白した日もあれば、会社を辞めた日も、一日じゅう泣いて過ごした日もある。何をしても、どこへ逃げても、誰といても、だめだった。午後十一時には必ず、あの声が追いついて、僕を殺す。そして、朝に戻る。
何百回繰り返しただろう。僕はもう疲れ果てていた。あがくのをやめた。ある周回で、僕は決めた。どうせ死ぬなら、あの声の正体を見てやろう、と。午後十一時、僕はわざと、あの階段の踊り場で待った。背後からの気配を待った。そして、突き落とされるその瞬間、僕は全力で振り返った。
そこに立っていたのは僕だった。
何百回も同じ一日を繰り返して、くたびれ果てた僕自身で、目は落ちくぼんで、憎しみだけが宿っていた。そいつは僕を突き落としながら囁いた。
「おまえが、何度も何度も、やり直すから。やり直すたびに、ひとつ前の『おまえ』がここに取り残されるんだ。この一日に閉じ込められたおまえが、もう何百人もいるんだぞ。次の新しいおまえが、のうのうと朝からやり直すのを、みんな疲れ、恨んでいる。──だから順番に追いついて、終わらせてやってるんだ。楽にしてやってるんだよ。さあ、おまえもこっち側だ。明日の朝、目を覚ますのはまた新しいおまえだ。おまえじゃない」。──落ちながら、僕は理解した。このループに出口なんて、最初からなかった。あがけばあがくほど、置き去りにされた「僕」が増えていくだけ。そして、今朝また目が覚めた。同じ天井が見え、同じ光が差す。僕の後ろには、もう何百人もの僕が並んで、順番を待っている。今日こそ抜け出そう。そう思ってしまう新しい僕がいる限り。