三分怪談

3分で読めるホラー掌編

第四話

相席

2026.08.10

終電を逃した夜は決まって駅裏のラーメン屋に寄る。カウンターだけの古い店だ。

その夜は先客がひとりいた。スーツの男で、俺のふたつ隣に座っていた。どちらからともなく話し始め、妙に馬が合った。仕事の愚痴、家族の話、昔やっていた野球の話。男は笑い上戸で、俺のつまらない話にもよく笑ってくれた。

閉店間際、男はふと真顔になって言った。

「あんた、いい人だな。……なあ、ひとつだけ聞いていいか」

「なんです?」

「あんた、いつからここに通ってる?」

五年くらいですかねと答えると、男はゆっくりうなずいて、それきり黙ってしまった。会計を済ませて出ていく背中に、店主が「まいど」と声をかけた。

引き戸が閉まってから、店主は洗い物の手を止めずに言った。

「お客さん、あの人と知り合い?」

「いえ、今日はじめて」

「そう。……あの人ね、五年前までうちの常連だったの」

店主は丼を拭きながら、こともなげに続けた。

「事故でね。今でもたまに来るんだけど、いつもひとりで喋って、ひとりで笑ってて。気の毒だから、そっとしといてあげてるの」

俺は笑って、それは自分のことじゃないですかと言おうとした。

店主はもうこちらを見ていなかった。俺の丼はカウンターに出されたときのまま、湯気ひとつ立てずに残っていた。