終バス
2026.08.12残業帰り、いつもの終バスに飛び乗った。
乗客は私ひとり。いつものことだ。一番後ろの席に沈み込み、目を閉じる。バスは定刻どおりに走り、停留所に停まっては、誰も乗せずに扉を閉める。
それなのに、停まるたびに料金箱の音がした。
ちゃりん、ちゃりん、と小銭の落ちる音。うとうとしながら、両替でもしているのだろうと思った。三つ目の停留所で、ちゃりん。四つ目で、ちゃりん、ちゃりん。
薄目を開けると、車内は相変わらず私ひとりだった。ただ、天井の吊り革が、いくつか、ゆっくりと揺れていた。バスは直線を走っていた。
私の停留所に着いて、降車ボタンを押した。運転手は「お疲れさまです」と言い、それから、ルームミラー越しにこちらを見た。
「お客さん、お連れさんは。起こさなくていいの」
振り返った車内には、誰もいなかった。
「そう。じゃあ、いつもどおり車庫まで乗せていきますから」