お忘れ物
2026.08.12電車に傘を忘れ、駅の忘れ物センターを訪ねた。
特徴を伝えると、初老の係員は奥へ引っ込み、やけに時間をかけてから戻ってきた。カウンターに置かれたのは、私の傘と、もうひとつ、小さな紙袋だった。
「こちらも、お客様のお忘れ物です」
袋の中には、子ども用の運動靴が入っていた。右足だけ。白地に青い線の、その靴に、私は見覚えがあった。小学二年の遠足で、川に流されて片方だけになった靴。もう三十年も前の話だ。
「これ……どこに」
「ずっとお預かりしていました。取りに見えるのを、お待ちしておりましたので」
係員は台帳を閉じ、深々と頭を下げた。
礼を言って立ち去ろうとしたとき、背中に声がかかった。
「お客様。左足のほうは、まだお預かりしたままです」
「……左足は、流されていませんが」
「はい。ですから――履いたままの方を、お預かりしております」