予約席
2026.08.13通い始めて十年になる、古い喫茶店がある。
窓際の奥の席には、いつも「ご予約席」の札が立っている。十年間、その席に誰かが座っているのを見たことがない。あるときマスターに聞いてみた。
「ああ、あれね。昔の常連さんの席。もう二十年、いらしてないんだけど」
「二十年? それはもう、来ないんじゃ……」
「うん。でもね、ああしておかないと」
マスターはコーヒーを淹れながら、こともなげに言った。
「札を下げた月はね、決まって誰かが座ってるんだよ。誰も入ってきてないのに」
冗談だと笑って、私はいつもの席——入口近くのカウンターに戻った。
昨日、店に行くと、私のいつもの席に真新しい札が立っていた。「ご予約席」。マスターは私と目を合わせず、窓の外を見ながら言った。
「ごめんね。昨日から、そこ、座ってらっしゃるの」
「……誰が」