後続車
2026.08.14深夜の峠道で、後ろにヘッドライトが付いた。
対向車もない山道だ。連れができたようで、むしろ心強かった。だが十分走っても、二十分走っても、ライトは同じ距離を保ってついてくる。こちらが速度を上げれば上がり、落とせば落ちる。
煽られているわけではない。ただ、ぴったりと、同じ距離。
気味が悪くなって、退避帯に車を停めた。後続車も、停まった。ライトを点けたまま、二十メートルほど後ろで。エンジン音は、聞こえなかった。
五分待った。動かない。私は意を決して車を降り、後ろに向かって声を張り上げた。
「何か用ですか!」
ライトが、ふっと消えた。
そこには何もなかった。車も、人も。ガードレールと、その向こうの暗い谷があるだけだった。私は震えながら運転席に戻り、山を下りた。バックミラーは、二度と見なかった。
翌朝、明るいところで車を点検して、ようやく気づいた。
リアガラスに、外側から、手のひらの跡がびっしりと付いていた。全部、ガラスの上のほう——大人が立って届く高さより、ずっと上に。