アラーム
2026.08.28
スマホに覚えのないアラームが増えていた。
午前三時三十三分。設定した記憶はない。ラベルは空欄だった。寝ぼけて作ったのだろうと削除して寝た。
翌朝また入っていた。三時三十三分。今度はラベルにひらがなで一文字。
「に」
削除しても翌朝には戻っている。ラベルは日ごとに増えた。「にげ」「にげて」。四日目、僕は消すのをやめて鳴らしてみることにした。何かの警告なら聞くべきだと思ったのだ。
三時三十三分、アラームが鳴った。
止めようと手を伸ばして気づいた。鳴っているのはスマホじゃない。音は部屋の隅から聞こえていた。クローゼットの中から僕のスマホと同じアラーム音がくぐもって鳴っていた。
スマホは枕元にある。画面は暗いままだ。
クローゼットの音はしばらく鳴ってぷつりと止まった。誰かが止めたように。それから衣装ケースの上あたりで、ことん、と音がした。僕は朝までスマホのライトを点けたまま壁を背にして座っていた。
朝、クローゼットを開けると奥から古いスマホが出てきた。僕のではない。前の住人の忘れ物だろうか。電源は入らなかった。充電器も繋がっていないそれの画面にアラームの通知が一件表示されたまま固まっていた。
「3:33 にげて」
僕はその日のうちに引っ越しを決めた。新居の夜は静かだ。ただゆうべ、スマホに覚えのないアラームがひとつ増えていた。午前三時三十四分。ラベルにはこうあった。「まにあった?」