三分怪談

3分で読めるホラー掌編

第二十七話

非常灯

2026.08.28

俺は映画館でバイトをしている。

最終回のあと、場内の忘れ物チェックをするのが仕事だ。客が全員出たスクリーンは非常灯の緑だけが灯って妙に静かになる。慣れればどうということもない。

ただ、うちの劇場にはバイト同士で受け継がれる妙な決まりがある。

「チェックのとき、非常口の緑のランプを数えるな」

非常口のランプなんて数えるまでもない。スクリーン1なら前に二つ、後ろに一つで三つだ。図面にもそう書いてある。だから数えるなと言われても、意味が分からなかった。

先輩に理由を聞くと、先輩は嫌そうに教えてくれた。

「たまに、四つある日があるんだよ」

四つ目は決まって客席の中ほどの、通路でもなんでもない場所に灯るのだという。緑色の、あの走る人のマークが暗がりにぽつんと。

「で、四つ目のやつ、よく見るとマークの人が走ってないんだ。こっちを向いて立ち止まってる。……見つけると覚えられる。覚えられると他のスクリーンでも会うようになる。だから数えるな。三つでも四つでも、気づかないふりして仕事しろ」

俺は先週、うっかり数えてしまった。最終回のあとのスクリーン4で、なんとなく癖で。

四つ、あった。

四つ目のマークの人はこちらを向いて立っていた。俺は気づかないふりをして忘れ物チェックを終え、扉を閉めた。閉める瞬間、場内の緑の光がひとつ、すっと客席を移動するのが見えた。

昨日、休みの日に街の雑居ビルのエレベーターに乗った。扉の上の階数表示の横に見慣れた緑のマークがあった。うちのビルにこんなのあったっけと思って見ていたら、マークの中の人がゆっくり、こちらに手を挙げた。——非常口の人は非常口なら、どこにでも立てるらしい。