三分怪談

3分で読めるホラー掌編

第二十九話

空席

2026.08.28

三年二組には誰も使わない机がひとつあった。

教室の一番後ろの、窓際の席。席替えのとき、その机だけはくじに入らない。誰かが座ろうとすると、担任がやんわり止める。「そこはいいから」と。生徒数と机の数が合っていないだけ、と言われればそれまでだった。

二学期に転校生が来た。

気のいい奴で、すぐクラスに馴染んだ。ただ席が足りなかった。担任が出張で不在の日、副担任が何も知らずに言った。「じゃあ、後ろの空いてる席にどうぞ」

転校生はあの席に座った。

何も起きなかった。その日は。

変化は少しずつだった。転校生は日ごとに無口になった。授業中、隣に喋りかけるように口だけ動かしていることがあった。誰もいない窓のほうへ。給食のとき、パンを半分、机の中にしまう癖がついた。「あとで食べるの?」と聞くと、彼はきょとんとして言った。「え、これは半分こだから」

三週間目、担任が出張から戻って蒼白になった。転校生はその日のうちに席を移され、あの机は保健室の裏に運ばれていった。担任は何も説明しなかった。ただ机を運ぶとき、中から古い給食のパンが袋ごと何十個も出てきたのを、僕たちは見てしまった。

どれも、きれいに半分だけなくなっていた。

転校生はその後、元に戻った。ただ卒業するまで、彼は給食のパンを最後まで食べきることができなかった。無意識に半分残して、はっとした顔をする。「ごめん、癖で」と笑う彼に、誰も何の癖なのかは聞かなかった。