三分怪談

3分で読めるホラー掌編

第三十六話

同行二人

2026.10.19

四国の遍路を、一人で歩いた。

白装束に菅笠。菅笠には「同行二人(どうぎょうににん)」と書いてある。一人で歩いていても、弘法大師さまがいつも一緒にいてくださる、という意味だ。心強い言葉だと思いながら、わたしは一番札所から歩き始めた。

遍路の道は静かだった。山道をひたすら歩く。すれ違う遍路もまばらだ。何日か歩くうちに、わたしは妙なことに気づいた。後ろから、もう一人ついてくる足音がするのだ。

じゃり、じゃり、と、わたしの足音に少し遅れて。振り返っても誰もいない。だが、歩き出すとまた後ろで足音がする。最初は「同行二人、弘法大師さまが一緒だ」と、ありがたく思っていた。

だが、その足音は日ごとにはっきりしてきた。宿坊で相部屋になった年配の先達(せんだつ)に、そのことを話すと彼の顔が曇った。

「……あんた、後ろから、ついてくる足音、聞こえるようになったか。それはな、大師さまじゃない。行き倒れた、昔の遍路さんだ」

先達は教えてくれた。昔、この遍路道では多くの人が力尽きて行き倒れた。病や飢えや雪で。彼らは満願——八十八ヶ所すべてを巡ること——を果たせなかった。その無念で今も遍路道をさまよっている。そして、一人で歩く遍路の後ろについて、一緒に残りの札所を巡ろうとするのだ、と。

「悪いもんじゃない。ただ、満願したいだけの、気の毒な人らだ。けどな、一つだけ気をつけろ。八十八番、満願の寺に着いたとき。決して後ろを振り返るな」

「振り返ったら、どうなるんです」

「後ろの遍路さんと目が合う。目が合うとな、その人は、あんたが満願したのを見て、『自分も満願できた』と勘違いする。そして成仏する。あんたの命と引き換えにな。満願の功徳を持っていかれるんだ」

わたしは震えながら遍路を続けた。後ろの足音は札所を巡るごとに増えた。二人、三人。じゃり、じゃり、と。満願を果たせなかったたくさんの遍路たちが、わたしの後ろに列を成してついてきた。

そして八十八番、満願の寺。わたしは本堂の前で手を合わせた。背後でたくさんの足音が止まった。皆、わたしが振り返るのを待っている気配だった。

わたしは振り返らなかった。ただ、菅笠を脱いで地面に置き、背後に向かって深く頭を下げた。そして心の中で唱えた。「どうか、皆さんも、満願されますように」と。自分の功徳を分けるつもりで。──足音が一つ、また一つと消えていった。最後に耳元で、しわがれた声が「……ありがとう」と言って、風に溶けた。振り返らなくてよかった。でも、あの人たちがちゃんと成仏できたのか、それだけは今も確かめようがない。