合わせ鏡
2026.11.23
引っ越したアパートの洗面所のことだ。
正面の鏡と、その真後ろの壁に、前の住人が残していった姿見。ちょうど合わせ鏡になっていた。歯を磨くたび、自分の後ろ姿が奥へ奥へと無限に続いていくのが見える。
ある晩、ふと数えてみた。奥へ続く自分の姿を一つ、二つ、と。三つめまでは、こちらと同じように歯ブラシを動かしていた。
四つめは止まって、こちらを見ていた。
ぞっとして後ろを振り返った。誰もいない。姿見に映るのは自分の背中だけ。気のせいだ、と正面に向き直る。
正面の鏡の中、奥へ続く列の四つめが、ゆっくりと片手を上げた。おいで、と手招きするように。
それ以来、僕は夜、洗面所を使わない。ただ、困ったことがある。朝、鏡を覗くと、いちばん手前の自分が時々、ほんの少し遅れて動くのだ。
まるで、列が一つ前に詰まったみたいに。