終点の忘れ物
2026.11.30
終電で、うたた寝をした。
目が覚めると車内は無人。窓の外は真っ暗で、駅名も見えない。終点を乗り過ごしたらしい。次の駅で降りよう、とドアの上の案内を見た。だが、路線図が知らない駅ばかりだった。
膝の上に紙袋があった。わたしのものではない。誰かの忘れ物だろう。中を覗くと、たたんだ子ども服が一着。真新しいのに、なぜか土の匂いがした。
やがて電車がゆっくり止まった。ホームに女が一人、立っていた。こちらに向かって深々と頭を下げている。
ドアが開く。女は顔を上げず、下げたまま囁いた。
「あの子の、着替えを。届けてくださって、ありがとうございます。ずっと、寒がっていたので」
わたしは紙袋を、思わず突き出した。女の下げた頭の、つむじだけが見えた。その白い分け目から細い手が二本、するりと伸びて、紙袋を受け取った。
ドアが閉まる。電車が動き出す。振り返ると、ホームの女はもう頭を下げていなかった。まっすぐこちらを見て、笑っていた。
次に停まった駅で、わたしは降りた。ちゃんと知っている駅だった。ただ、膝の上にまた紙袋があった。同じ子ども服。同じ土の匂い。──明日の終電も、あの女はホームで待っているのだろう。