既読
2026.12.07
祖母が亡くなって、半年が過ぎた。
スマホの連絡先に祖母の番号が残っていた。消すのがなんとなく忍びなくて、そのままにしていた。祖母は昔、覚えたてのメッセージアプリで、よく短い文を送ってきた。「げんきか」「ごはんたべたか」。それだけの。
命日の夜、酔った勢いでそのトーク画面を開いた。最後のメッセージは、入院する前の「はやくかえっておいで」。あたしは返せずじまいだった。
「ばあちゃん、ごめん」と打ち込んで送った。届くはずもない。分かっていた。
数秒後。メッセージの横に、ぽつん、と「既読」がついた。
心臓が跳ねた。震える指で次を打つ。「ばあちゃん、そこにいるの?」。送信。すぐに既読。
そして画面の下に、相手が入力中を示す、あの三つの点が灯った。ぽ、ぽ、ぽ、と。祖母が何かを打っている。
あたしは返事を待った。点はいつまでも点滅し続けた。長い長い時間。まるで、たくさんの言葉を選んでは消し、選んでは消ししているように。
やがて届いた。たった一行。
「だれ? この番号、もう、べつの人が、つかってるよ」
あたしは、祖母の番号がとっくに解約され、他人に再割り当てされていたことを、そのとき初めて知った。──では、それまでの「既読」は。命日の夜に、あたしのメッセージを静かに、一つずつ読んでいたのは誰だったのだろう。