三分怪談

3分で読めるホラー掌編

第四十五話

合鍵屋

2026.12.21

駅前の小さな合鍵屋の話だ。

私は鍵をなくして、その店に元の鍵の型から作れないかと持ち込んだ。白髪の店主は私の一本をじっと眺めて言った。

「これ、うちで作った合鍵だね。十年くらい前かな」

そんなはずはない。この鍵は今の部屋を借りたとき、不動産屋からもらった正規のものだ。この街に来てまだ三年。この店で鍵を作った覚えなどない。

店主は奥から分厚い台帳を出してきた。合鍵を作った客の控えらしい。鍵の溝を拓本のように写し取ったもの。ページをめくり、あるところで止めた。

「ほら。これだ。十年前の二月。この鍵、この溝。間違いない。作りに来たのは──」

そこには鍵の写しと並んで注文主の名前が書いてあった。私の名前だった。字も私の筆跡だった。

「変だねえ」と店主は首をかしげた。「このとき、あんた、こう言ったんだよ。『前の住人が、まだ合鍵を持ってる気がして、怖い』って。だから鍵ごと替えたいって。……で、これが、その、新しいほうの控え」

店主が次のページをめくった。そこにも同じ溝の同じ鍵の写し。日付は三年前。私がこの部屋を借りた、まさにその月。

私は今の部屋にたしかに三年住んでいる。その前の十年間、この街にいた記憶はまったくない。──ただ家に帰るたび、玄関のドアにうっすらと誰かが合鍵を挿したような細い擦り傷が増えている。前の住人が、まだ合鍵を持っている気がする。その「前の住人」が私自身でないと、どうして言えるだろう。