三分怪談

3分で読めるホラー掌編

第四十六話

点滴

入院して三日目の夜だった。

大部屋のいちばん奥のベッド。眠れないまま、僕は点滴の滴を数えていた。ぽたり、ぽたりと落ちる透明な雫。一つ、二つ、三つ。数えていればそのうち眠れる気がした。

百を過ぎ、二百を過ぎ、三百を過ぎた。数字だけが頭の中で静かに増えていく。

四百を過ぎたころ、僕はふと気づいた。

数を数える声が僕の声ではなくなっていた。頭の中で「四百一、四百二」と数えているのは、しわがれた老人の声だった。僕の思考に割り込むように。僕より少し先の数字を。

僕は数えるのをやめた。だが声はやめなかった。「四百八。四百九」。暗い病室にその声だけが続いた。すぐ隣から。

隣のベッドは今朝、空いたはずだった。前の晩まで寝ていた老人が明け方に亡くなったのだ。カーテンは閉じたまま。

「四百二十。……あんたも、いっしょに、数えよう。千まで、数えたらな。迎えが、来るんじゃ」

僕は耳を塞いで朝を待った。声は止まなかった。──退院した今も、眠れない夜、点滴のことを思い出すと、頭の奥であの声が続きを数え始める。今夜で九百八十七。あと少しだ。僕は千を数えたくない。