地下三階
残業帰り、深夜のことだった。
会社のビルの地下駐車場。俺の車は地下二階に停めてあった。エレベーターに乗り「B2」を押す。無人の箱が静かに降りていく。
B1を過ぎ、B2に着く——はずだった。だが扉は開かず、箱はさらに降りた。表示灯が点いた。「B3」。
この駐車場は地下二階までしかない。B3など存在しない。俺は押していない。
扉が開いた。そこは見たこともない駐車場だった。同じ造りの、だがどこか湿った冷たい空気。蛍光灯が半分ほど切れて明滅している。そして、ずらりと並んだ駐車スペースに車が一台もなかった。ただ一台を除いて。
いちばん奥に俺の車が停まっていた。地下二階に停めたはずの、俺の車が。ヘッドライトを点けて、こちらを待つように。運転席に誰かが座っていた。
その誰かがこちらに向かって、ゆっくりと手を振った。おいで、おいで、と。俺自身のシルエットで。
俺は「閉」を連打した。扉が閉まるその隙間から、運転席の「俺」がクラクションを鳴らした。ぷ、ぷ、と二回。俺がいつも家族に「ただいま」を知らせるときの鳴らし方で。
エレベーターはB1に戻り、俺は階段を駆け上がって外へ出た。タクシーで帰宅した。車は置いてきた。──翌朝、地下二階へ車を取りに行った。車はちゃんとそこにあった。何もおかしくなかった。ただ、ダッシュボードの走行距離計がゆうべより地下三階ぶんだけ増えていた。そして家族が言うには。ゆうべ、俺が帰る少し前に、車のクラクションが玄関の前で、ぷ、ぷ、と二回鳴ったのだという。俺がまだ会社にいた時刻に。