三分怪談

3分で読めるホラー掌編

第四十九話

千羽

娘が長い入院をしていた。

ある朝、病室の窓辺に折り鶴が一羽、置かれていた。きれいな赤い折り紙の鶴。看護師さんが気を利かせてくれたのだろう、と思った。娘も喜んでいた。

次の朝、鶴は二羽になっていた。その次の朝は三羽。毎朝一羽ずつ増えていく。誰が置いていくのか分からなかった。看護師さんに聞いても、「私たちではありません」と首をかしげるばかり。

面会は私と妻だけ。夜間は誰も病室に入らない。なのに鶴は毎朝、確実に一羽ずつ増えた。私は娘の快復を祈ってくれる誰かがいるのだ、と思うことにした。ありがたいことだ、と。

鶴が五百羽を超えたころ、娘がぽつりと言った。

「あのね。鶴を折ってるの、夜に来る女の子なの。わたしと同じ年くらいの。毎晩来て、窓のところで折ってるの。『千羽になったら、いっしょに行こうね』って」

私はぞっとした。妻と夜通し、病室に付き添った。だが、その夜、女の子は来なかった。それでも明け方、私たちがほんの少しうとうとした隙に、鶴はまた一羽増えていた。私たちのすぐ目の前で。

私は鶴を全部捨てようとした。だが娘が泣いて嫌がった。「捨てたら、あの子が悲しむ」と。私は捨てられなかった。

鶴は増え続けた。九百。九百五十。九百九十。私は必死に転院の手続きを進めた。千羽になる前に。この病室から娘を連れ出さなければ。

転院の前夜。鶴は九百九十九羽になっていた。あと一羽。私は一睡もせず窓辺を見張った。絶対に千羽目を折らせない。──夜明け近く、娘が布団の中でむくりと起き上がった。そして枕元の折り紙を一枚、手に取ると慣れた手つきで鶴を折り始めた。「おはよう、おかあさん」と、聞いたことのない女の子の声で。「これで、ちょうど千羽。やっと、そろったね」。