三分怪談

3分で読めるホラー掌編

第五十五話

十四段目

古い団地の四階に住んでいる。

エレベーターはなく、いつも階段を使う。各階の間は十三段。もう体が覚えている。暗くても十三段上れば次の踊り場に着く。

ある晩、残業で遅く帰った。階段を上っていく。三階から四階へ。一段、二段と、いつものリズムで。十三段目を上りきった。だが足が止まらなかった。まだ上がある、と体が勝手にもう一段、足を持ち上げた。

十四段目。だが、そこに段はなかった。足が空を踏んで、私はたたらを踏んだ。おかしい。この階段は十三段のはずだ。

気のせいだ、と思った。だが、次の日も、その次の日も。夜、暗い階段を上ると、いちばん上で必ず一段ぶん足が余った。あるはずのない十四段目を踏もうとして。昼間は何ともない。ちゃんと十三段。夜だけ一段増える。

私は怖くなって、夜はスマホのライトで足元を照らしながら上るようにした。すると、はっきりと見えた。十三段目の上、踊り場との間に。うっすらと、もう一段、透明な段が浮かんでいるのが。誰かがそこに一段、付け足したように。

そして今夜、ライトで照らしながら階段を上ると、その十四段目に誰かが座っていた。こちらに背を向けて。膝を抱えて。小さくうずくまって。私が上ってくるのを、ずっと待っていたように。

私は動けなかった。その背中がゆっくりと振り向こうとする。私はライトを消して、暗闇の中を手すりだけを頼りに部屋へ逃げ込んだ。──それ以来、私は夜、階段を数えない。数えれば十三で終わらないから。ただ、最近気になることがある。朝、明るい階段を下りるとき。いちばん下、一段目のそのまた下に。地面のはずの場所に、足が沈む感触がある。上に一段増えたぶん、下からも一段増えている。私の部屋は少しずつ、上と下のあいだの、どこにも無い階に閉じ込められていく。