常連
深夜二時のコンビニには、必ずその男が来た。
いつも同じのり弁当をひとつ買い、同じ小銭をぴったり出して何も喋らず、ぼそりと会釈して帰る。黒いコートを着て、日に焼けたことのなさそうな白い顔をした男で、半年近く、ほとんど毎晩姿を見せていた。僕はもう、その時刻になると自然とレジの前に立つようになっていた。
今夜も二時ちょうどに自動ドアが鳴り、男が入ってくると、いつものようにまっすぐ弁当の棚へ向かった。だが、戻ってきた男がレジに置いたのは弁当ではなかった。
名札だった。コンビニの制服につける名前を入れるプラスチックの名札で、角がすり切れて、ラミネートが飴色に黄ばんでおり、ずいぶん古いものだった。そこに印字された名前を見て、僕は息が止まった。僕の名前だった。
思わず自分の胸を見た。僕の名札は、買ったばかりのまだ新しいものが、ちゃんとそこにあった。カウンターの上のは、同じ名前で同じ書体で、ただ何十年も使い込んだようにくたびれていた。
男が初めて笑い、そして初めて口をきいた。
「長いこと、お世話になりました。やっと、交代ですね」
意味が分からなかった。男は名札を置いたまま手ぶらで、弁当も買わずに会釈して出ていった。僕は黄ばんだ名札をつまみ上げた。裏に小さく日付が彫ってあり、今日の夜の日付だった。
そのとき、店の奥で品出しの段ボールを開けるような音がした。でも、今夜のシフトは僕ひとりのはずだ。
「いらっしゃいませ」と奥から声がした。僕の声だった。少しかすれて、くたびれた、何十年も同じ言葉を言い続けてきたような声だった。防犯モニターには奥の通路が映っていて、品出しをしている制服の店員がひとり、胸に飴色の名札をつけていた。こちらに背を向けたその人がゆっくり振り返る前に、僕は目をそらした。──明日の夜も二時になれば、僕はきっとレジの前に立つ。今度は買いに来る側として。